言葉が通じたのに、なぜうまくいかない?
語学力・コミュニケーション力・CQの違いを、
職場の「あるある」から考える
外国人スタッフに仕事を頼んだ。相手は笑顔で「はい、分かりました」と答えた。ところが、翌日になっても仕事は終わっていない。
職場の異文化コミュニケーションでは、こうした「言葉は通じたのに、うまくいかない」場面がよく起こります。
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「言葉は通じていたはずなのに、どうして?」
海外で仕事をしていると、このようなことが起こります。原因をすぐに「語学力が足りない」「本人にやる気がない」と考えたくなりますが、実際にはもう少し複雑です。
仕事で必要なのは、言葉が分かることだけではありません。相手の真意を理解し、さらに、考え方や価値観が違う相手と一緒に成果を出すところまで考える必要があります。
まずは、この3つの違いを理解してください

この3つは、どれが一番偉いという話ではありません。語学力が入口となり、コミュニケーションによって理解を深め、CQによって違いを実際の協働につなげます。
語学力があれば、真意まで分かるのか?
例えば、スタッフが英語で “I’ll try.”(やってみます) と答えたとします。言葉だけを見れば、「やってくれる」と受け取るかもしれません。しかし実際には、次のような可能性があります。
- 難しいけれど、本当に挑戦してみる
- できる自信はないが、はっきり断りにくい
- 上司の前なので、とりあえず肯定的に答えた
- 期限や完成基準を理解していない
語彙や文法が分かっても、その一言に込められた真意まで自動的に分かるわけではありません。これは外国語だけの問題ではなく、日本人同士の「検討します」「大丈夫です」「ちょっと難しいです」でも同じです。
語学力は、相手の言葉を理解する力。相手の本音を自動的に見抜く力ではありません。
話し合って分かり合えた。それでも辞めることはある
優秀なスタッフが退職を考えているとします。上司がじっくり話を聞くと、本人は「もっと責任のある仕事に挑戦したい」「家族との時間を増やしたい」「今の評価方法に納得できない」と率直に話してくれました。
上司も本人の気持ちを理解し、本人も会社の事情を理解しました。コミュニケーションは成立しています。それでも、希望する働き方や将来像が会社と合わなければ、本人は退職するかもしれません。
「分かり合うこと」と「同じ結論になること」は別です。
コミュニケーション力は、誤解を減らし、互いの考えを見えるようにします。しかし、理解できたからといって、相手が必ず会社の希望どおりに行動するわけではありません。
では、CQは何をするのか?
CQが扱うのは、その先です。「本人と会社では、仕事に求めているものが違う」と分かったときに、どちらかを一方的に変えようとするのではなく、違いを踏まえて、一緒に能力を発揮できる方法を考えます。
- 本人の強みを活かせる役割に変えられないか
- 指示を待つ仕事から、判断を任せる仕事に変えられないか
- 会議で発言しにくいなら、事前に意見を聞けないか
- 評価の基準を、本人にも分かる形で示せないか
- 働く時間や場所について、双方が納得できる方法はないか
もちろん、CQが高ければ退職を必ず防げるわけではありません。条件が合わず、別々の道を選ぶこともあります。しかし、相手を「理解できない人」と決めつけず、違いの原因を確かめ、双方にとってより良い選択肢を探すことができます。
CQは、相手を会社のやり方に従わせる力ではありません。違う人同士が、どうすれば共に力を発揮できるかを考える力です。
会議での「沈黙」を例にすると分かりやすい
会議で上司が部下に質問しました。しかし、部下は何も言いません。
| 語学力で考える | 質問の言葉を理解できたか。知らない単語はなかったか。 |
| コミュニケーション力で考える | 質問は具体的だったか。考える時間を与えたか。理解を確認したか。 |
| CQで考える | 人前で上司に反対しにくいのか。発言以外の方法なら意見を出せるのか。自分の会議の進め方を変える必要はないか。 |
沈黙だけを見て、「やる気がない」「意見がない」と判断すると、本当の原因を見誤ります。CQのある人は、文化だけで決めつけることもせず、個人差や職場環境を含めて複数の可能性を考え、確かめます。
3つの力は、階段のようにつながっている

語学力が高くても、相手の真意を確認しなければ誤解は起こります。コミュニケーションが上手でも、違いを受け入れられなければ、一方的な説得になってしまいます。
異文化コミュニケーションを変える、明日からできる3つの確認
- 言葉は伝わったか
相手が理解できる表現になっているか。 - 真意まで確認したか
「分かりましたか」だけで終わらず、相手がどう理解したかを聞いたか。 - 一緒に力を発揮できる形か
自分のやり方を押しつけず、役割、伝え方、確認方法を調整できないか。
まとめ
語学力は、言葉を分かるための力。
コミュニケーション力は、お互いの考えを分かるための力。
CQは、違いを理解したうえで、一緒に力を発揮するための力。
言葉が通じれば、仕事がうまくいくとは限りません。分かり合えれば、同じ結論になるとも限りません。それでも、互いの違いを知り、関わり方を工夫することで、一人では生み出せない成果をつくることができます。それが、ビジネスにおけるCQの役割です。
異文化コミュニケーションの土台となるCQの4つの要素については、CQとはで解説しています。日本で働く外国人は257万人を超え、職場での異文化コミュニケーションは身近な課題になっています(厚生労働省のデータ|nippon.com)。あなたのCQは、無料のCQ診断で確認できます。
このページの考え方について
このページの3段階は、違いを分かりやすく説明するための実務的な整理であり、3つの能力を測る公式な分類ではありません。CQについては、異文化に関わる意欲、知識、状況の捉え方、行動の調整という研究上の枠組みをもとにしています。
| 【参考文献】 Earley, P. C., & Ang, S. (2003). Cultural Intelligence: Individual Interactions Across Cultures. Stanford University Press. Earley, P. C., & Mosakowski, E. (2004). Cultural Intelligence. Harvard Business Review, 82(10), 139–146. Ang, S., Van Dyne, L., Koh, C., Ng, K. Y., Templer, K. J., Tay, C., & Chandrasekar, N. A. (2007). Cultural Intelligence: Its Measurement and Effects on Cultural Judgment and Decision Making, Cultural Adaptation and Task Performance. Management and Organization Review, 3(3), 335–371. |